発信力よりも「共感をつなぐ力」に注目が集まっている
数年前まで、SNS上では「発信する人」が主役だった。
誰よりも早く、強く、鮮やかに意見を表明できることが影響力の証とされてきた。
しかし今、静かな変化が起きている。
発信の熱量よりも、共感を拾い上げ、再配置できる人に信頼が集まりはじめている。
誰かの言葉を引用し、少し文脈を整える。
複数の意見を並べて「この視点もある」と示す。
あるいは、自分の意見を主張せずに、他者の共感を可視化する。
このような“編集的な発信”が増えている。
それは、声を張り上げることではなく、
多様な感情の「整理役」として機能する新しい信頼構造である。
発信の「量」ではなく、共感の「配置」。
それが、次の時代の信用の形をつくりはじめている。
発信社会の飽和と“共感編集者”の台頭
① 価格の動き:情報の希少性が消え、共感の文脈が価値を持ちはじめた
かつては、情報そのものが価値を持っていた。
新しい知識、ニュース、ノウハウが“価格の源泉”だった。
しかし今、AIが生成する情報が溢れ、
発信内容の差異が限りなく薄まっている。
「誰が言ったか」よりも、「どんな文脈で配置されたか」が重視されるようになった。
つまり、情報の価格は下がり、
文脈を整える力——つまり編集力の価格が上昇している。
発信とは「点」であり、編集とは「面」だ。
共感を面としてつなげられる人が、
情報の渋滞を解消し、関係の安定をもたらしている。
② 信用の蓄積:共感の“通訳者”が信頼の中継点になる
情報が多すぎる社会では、
「どの意見に共感してよいか」が見えにくくなる。
そこで重要になるのが、“共感の編集者”だ。
誰かの意見を一方的に広めるのではなく、
それぞれの思いを「衝突させずに並べる」役割を果たす。
この立ち位置は、単なるキュレーションではない。
発信者と受信者の間に立ち、
異なる温度を調整しながら「安心して共感できる空気」を作る行為だ。
こうした編集的ふるまいの中で、信用は「主張の正しさ」ではなく
「共感の整え方」に蓄積していく。
つまり、信用は発信の強度ではなく、共感の温度差を扱える安定性に宿る。
③ 立ち位置の変化:声を上げる人より“つなぐ人”が中心へ
この構造の中で有利な立ち位置を得ているのは、
意見を持つ人ではなく、意見の間に立てる人である。
かつてSNSでは、強い言葉を使う人が中心にいた。
だが今、強さよりも「翻訳力」が評価される。
異なる立場の人をつなぎ、対立を避け、共感を調律できる人。
その人の周りでは、発信者同士が争うのではなく、
緩やかに共鳴する構造が生まれている。
このように、社会の中で「発信者」よりも「共感編集者」が信用の要を担うようになっている。
発信疲れと“正しさの渋滞”が限界を迎えた時期
発信の構造が変わり始めたのは、
誰もが発言できるようになった時代の“飽和”が極まったころだ。
数年前、SNS上では「正しいことを言う人」が大量に現れた。
しかし、その数が増えるほど、
正しさはぶつかり、
言葉の価値は下がっていった。
さらに、リツイートや引用が増えすぎたことで、
誰の意見が誰のもので、どの文脈で発せられたのかが曖昧になった。
結果として、発信そのものの「信頼性」が揺らいだ。
この混乱の中で人々が求めたのは、
「誰が正しいか」ではなく、
「どこに安心して共感できるか」だった。
そのとき、自然に現れたのが“共感を編集する人”である。
彼らは主張せず、位置関係を整える。
言葉を足さず、間をつくる。
つまり、情報が多すぎる世界では、沈黙の構造が信用を生むようになったのだ。
信用は「言葉」よりも「配置」で動く社会へ
この流れが続くと、
信用は「何を言うか」ではなく「どの位置から語るか」によって形成される。
価格の面では、発信コンテンツの単価が下がり、
「編集・再配置・意味づけ」に価値が移動していく。
つまり、“共感の編集”が市場価値を持つようになる。
信用の面では、影響力の指標が「フォロワー数」ではなく、
“誰と誰をつないでいるか”というネットワークの結び目度に置き換わるだろう。
そして立ち位置の面では、
主張の発信者よりも、
関係の翻訳者が中心に立つ構造へと変化する。
中長期的には、SNSも「発信プラットフォーム」から
「共感編集プラットフォーム」へと変わっていく可能性がある。
そこでは、個人が競い合うのではなく、
多様な感情や視点を“編集”して共有する行為が新たな価値を生む。
社会全体が、情報の所有から「共感の編集」へとシフトする。
それは、発信が飽和した社会における、自然な適応だ。
判断は読者に委ねる
発信が溢れ、正しさがぶつかる社会では、
「何を言うか」よりも「どう関わるか」が問われる。
共感を編集する人は、
静かに全体の温度を調整し、
人と人の“間”に信頼をつくっている。
それは、目立たないが確かな信用のかたち。
声を上げることよりも、
声を“整えること”が評価される時代に、私たちは入りつつある。
信用は、発信量では測れない。
それは、共感の流れをどう編集できるかにかかっている。
この変化をどう受け取るか。
答えは、あなたのタイムラインの中にすでに現れているかもしれない。

